最後の優しさ
その後は、霊安室からのお迎えが来るまで、荷物をまとめたり、話しかけてみたり、リップ塗ってみたりキスしてみたり(しつこい笑)して時間を過ごした。
看護士さんが2人来て、彼の体を綺麗にしてくれると言うので、お願いして席を外す。
そういえば、先生から解剖したいとお願いされた。
これだけ治療しても良くならなかったから、体の中を見て今後の医学の発展に〜ほにゃららと言われたので、了承した。
解剖すれば腹水でパンパンだったお腹もスッキリするというし、
あまり善行を積んできたとはいえない彼が、あの世で少しでも待遇良くなるように(笑)、人のお役に立ってほしいというのもあった。
本当はこれから病院付きの葬儀社の人と打ち合わせて体をどうするかまで決める必要があったのだけど、
解剖をするならそれが終わってから決めてもいいと言うので、一旦帰宅することになった。
既に時間は5時をまわっていたけど、窓の外はまだ薄暗くて、看護士さんと、まだまだ日が昇りませんねなんて話をして。
この時は何故か冷静だったな、自分…。
これから帰れば、息子の朝ごはんを作ってあげて一緒に食べることができる。
普段ならトイレにまでついてきて、うっかり鍵をかけた日には開かないドアの前で泣き崩れるようなハイパー甘えん坊の息子が、
昨夜に限ってはほぼ手のかからないいい子だったと預けていた母がいうから、もしかしたら何かを察して我慢していたのかもしれない。
帰って抱きしめてあげなければ。
私は1人ではないんだ。
私が付き添いした日は結局、一晩だけ。
これが長くなっていても、私は息子を母に預けて、夜は泊まりこんでいたと思う。
急変するのは夜が多いという印象があったから。
そう考えると、
どうか、もしも逝ってしまうなら、他の人ではなくて私がそばにいるときに…という願いを叶えてくれ、
そして旦那が大切に大切にしていた息子に、これ以上寂しい思いをさせないように、朝ごはんにも間に合うように家に帰してくれた。
これは、だらしなくて意思も弱いけど、心はとても優しい旦那らしい気遣いだったのだと思っている。