旦那の死に立ち会って②
別室のモニターに出ていたのだろう、
旦那の口と鼻に、酸素マスクをつけられた。
少し穏やかになる旦那。
でもすぐまた苦しそうに肩で息をし始める。
嫌だ、嫌だ、行かないで。
おばあちゃん、〇〇さん、旦那をまだ迎えに来ないで。
旦那がそっちに行きそうになったら、引き止めて私のところへ戻るように伝えて。お願いだから。
「頑張って!息を深く吸うんだよ!楽になるよ!あとね、お花畑が見えてもそっちには行かないで!光が見えても行かないで!
私の声だけを聞いて!私のところに戻ってきて!」
もう看護士さんがいるのも気にせずに叫んでいた。
たまにふっと呼吸が止まることがあるように見えたけど、病室にはドラマのような心電図やら何やらを写すディスプレイがないのでよくわからない。
「先生を呼んできます!」
看護士さんが出て行って、また2人きりになった。
「きこえるー?明るい方には行かないで!振り向いて暗い方に来るんだよ!
私の声だけ聞いて!私の方に来て!
おばあちゃん、旦那を引き止めて…」
息子が無邪気に、パパ〜と言っている動画を耳元でリピートさせた。
「チビの声きこえる??こっちだよ!
あなたの進む方はこっちなの!」
もう泣き声で何度も叫んだと思う。
先生が病室に入ってきた。
「心臓が止まったり、また動いたりしています。
最後の力を振り絞っているのだと思います」
旦那は諦めてない。
息子の運動会で走るシミュレーションをしていた、旦那。
財布が古くなったから退院したときのために、ネットで注文していた旦那。
お気に入りの靴が古くなったからと、これもネットで購入していた、旦那。
全部、もう届いている。
彼は死ぬ気なんてさらさらない。
生きたいという気持ちを持ち続けている。
「頑張れ!諦めないで!頑張ってよー!」
今は苦しくても頑張らないと。
だってどうしても生きたいんだよね?
大丈夫、俺は死なないからって、手握ってくれたよね。
私もあなたに生きていてほしい。
色んなことあったけど、離婚だ!とも何度も言ったけど、
長い入院生活で旦那は少し変わった。
生きて欲しい。
散々嘘つかれて泣いたこともあったけど、
最後まで嘘つかないよね?
旦那の呼吸がまた止まった。
さっきまでは揺さぶると、思い出したように息をしてくれていたのに、
今度は止まっている時間が長い。
また揺さぶってみる。
ガッチリしていた首がすごく細くなっていて、強く揺さぶったら折れてしまいそうで怖かった。
息が止まって1分、1分30秒、2分…
いつの間にか先生はいなくて、看護士さんに変わっていた。
看護士さんが小さな声で何か言ってる。
「モニターを見る限り、心臓が、もう…動いていません…」
その言葉を聞いたのを最後に、そのあとの数分の記憶がない。
私の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていたことだけは確かだまたと思う。