旦那の死まであと1日② 義弟とのこと
お義母さんの次は義弟、最後にお義父さんが面会をした。
前も書いたけど私は義弟の顔も見たくなかったので挨拶も碌にしていなかったけど、
面会から戻ってきたら彼が目を真っ赤にして人目も憚らずに大泣きしながら言ったことで、私の心は氷解した。
「あのとき、お義父さんが頼みに来たとき、奧さんがあんなこと言っちゃったけど、時期までにはかならずわかってもらえるように説得するつもりだった…」
旦那は、肝移植以外にもう助かる道がなかった。
でもアルコール性の肝臓疾患の場合、禁酒期間がないとドナー登録はおろか、生体肝移植もしてもらえない決まりがある。
肝臓が本格的に壊れる人はもはやアルコール中毒であり依存症だから、移植でよくなったとしてもいただいた肝臓をまたすぐにダメにしてしまう可能性が高いから。
理解はできる。
ただし当事者でなければ。
肝移植しか助かる手段のないくらいの病状の人が6ヶ月生きることはほぼ奇跡に近いことらしい。
そんな自業自得で体壊した人が脳死ドナー登録はできないとしても、肝臓あげる側が納得してるのになんで待たなきゃいけないの?
その間に死んじゃうよ!と思う。
とにかくそんな事情でお義父さんが義弟家族にドナーのお願いに行った時、話を聞いた嫁の第一声が、
「え!娘の保育園も決まって私の職場復帰もあるのにそんな!」
だった。
そう言って泣き崩れた嫁と、無言の弟を前にお義父さんは退散するしかなかったと。
…わかってる、完全な逆恨みだと。
ドナーになるなんて難しいこと、はいはいと即答できるわけない。
でも、わかってはいても、旦那を傷つけるようなことになった原因を許せなかった。
もし反対の立場なら、旦那だったら即答していたと確信している。
アル中でだらしがなくて、どうしようもない旦那だけど、そういうアツさのある人だったから。
それで自分が損しているのも何度も見ていて、正直、なんでそこまでするのよと思うこともあったけど、
同時にそれが旦那の好きなところでもあった。
そんな逆恨みから義弟の顔を見るのも嫌だったのだけど、
泣き崩れる擬態を見て、
あ。もういいや。と思った。
恨むのをやめようと。
旦那にはずっと、肝臓は私があげるから、
あなたは体力をつけて、手術の日を待つだけだよと何度か話していた。
だから旦那は最期の最後まで希望を捨てないで、生きようと頑張っていた。
旦那は傷ついていなかったと思うことにした。
そして3人は翌日またお見舞いに来るからと言って帰って行った。
旦那とやっとふたりきりになれる時間だ。